わたしの隣の魔法使い
第1章 わたしとあなたの出会い
【その2】
「え?」
一体何が起きたかわからなかった。たしか商店街を進んで、だんだん人通りが少なくなってきたなーって思って裏路地のような所に入った所までは覚えている。でもその先の記憶がすごい曖昧だった。私は今隣にいる男性に思いっきりぶつかって……。
私の隣には知らない男性が立っていた。男性……というのは少し若いかもしれない。もしかしたら私と同じ位の歳かも?
「あの……ここはどこなんでしょう?」
私は恐る恐る訪ねてみる。だってさっきいたところとは明らかに違うところに私はいる。私がこれから暮らそうとするのはこんな田園風景の場所じゃないし。
でも男性は何も答えてくれない。ただ額に手をおいてウーンウーン唸っていた。明らかに困った顔をしている。いや、困っているのは私だし。
よし、頭を整理してみよう。記憶を戻してみよう。
私は本を読むのが好きだった。だから毎日のように本屋に立ち寄っては気に入った本が発売されてないか見に行く。家の近くに本屋がないなんて論外で、この街にどんな本屋があるのか私は駅からかなりの距離を周りをキョロキョロしながら歩いていた。
そこで見つけた少し古めの本屋さん。もちろん新しい雑誌なんかも売っているけど、店の奥にいくと古くホコリがかぶったような本も沢山販売されていた。もしかしたらあの本の初版とか売っているかもしれない。私は胸が躍った。何度も転校していると、これから出会う友達なんかより、こういうその場その場で出会うお店や本なんかに喜んでしまう私はちょっとおかしいんだろうか。そんなことを心の中で笑い、私は小さな本屋さんの外へ出た。空も丁度茜色に染まりつつあり、私はそろそろ家に帰ろうと体の向きを来た方向に向けた。
その時だった。本屋の横にある小さな路地からいきなり人が飛び出してきて私と思いっきりぶつかったのは。私はその拍子に地面に尻餅をつく。
「いったぁ。危ないじゃないですか!」
と言って顔を上げたときにはもう周りの風景は田園風景になっていた。
はい。思い返してみてもどこがどうなっているのかわかりません。
頭を整理してバカみたいと私は思った。たぶんこれは普通じゃない状況。私は深いため息をついた。
そんな私が頭をグルグルさせていると、隣の男性が私に話しかけてきた。この状況になってからたぶん10分くらい立っているはず。遅いってば。
「ごめん。本当にごめん」
空はすっかり茜色と藍色が混ざって少し星が見えていた。だから男性の顔は今までぼんやりしか見えなかったけれど、しっかり見てみるとけっこう整った顔をしている。少し金髪かかった茶色の髪が空の色と混ざり不思議な色を発している。私はその知らない人にドキっとした。きっと世の女性ならこの人を見てほぼドキっとするだろう。恋とか愛じゃなくて。だって綺麗な顔が目の前にくるとやっぱドキドキしちゃうし。
「謝るのは後いいので、この状況を説明してほしいんですが……」
「そうだよね。でも言えないこともあるっていうのもわかってもらえるかな?」
わかるよ。そりゃわかる。
たぶんこの世の中には私みたいな一般人が関与しちゃいけないことって沢山あるんだと思う。今の状況がたぶんそれ。それに面倒なことに首を突っ込みたくないし。でもそんなことをあっさり言われてしまうとあんまり気持ちよくはないかな。
「わかります。じゃあもう聞きません。とにかく私をもとの場所に帰してください」
「わかった。じゃあ少しだけ目をつぶっていてくれる?で、僕がいいって言うまで目を開けないでね」
新しい街にやってきた1日目。私はそんな不思議な体験をした。
気がつくと私は元の場所に戻っていた。傍に彼はもういない。なんだかおかしくなった私は小さな声を出して笑った。今までファンタジーな話の本を沢山読んでいたから、不思議な出会いに憧れていた。そこからストーリーがはじまると。でもそれはあっけなく終わった。私は彼の名前も知らないし、もう顔もあまり思い出せない。現実はこんなものと私は笑った。
そしてゆっくりと家に向かって歩いていった。この不思議な出来事を胸の中で思い返しつつ。
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