誰がための小夜曲


番外編
【新婚旅行:3】


 白の生地に黒いライン、フリルがついたビキニタイプの水着。今までビキニなんて一度も着たことのない澪は、バスルームにある洗面台の鏡を見ながら、恥かしさでどうにかなってしまいそうになっていた。
(だ、だめ。こんなので絶対出て行けない)
 スタイルに自信もなければ、細くもない。それなのになんでこんな水着を買ってしまったのか、澪は今更ながら後悔していた。
(あの時はそういうテンションで……。美雪のばかぁ)
 はじめは普通のワンピースの水着にしようと思っていた。しかし美雪が何度も何度もこの水着を持ってきて、絶対に似合うから、と澪に薦めてきたのだった。そのあまりの強い薦め方に澪は折れてしまって、今この水着を身に着けている。
「やっぱり駄目!こんなの恥かしい!」
 だから澪は今すぐ脱ごうと思っていた。こんなの詩亜には見せられないと。水着だったら下のショップで売っていた。明日、ワンピース型のを買えばいい、澪はそう思っていた。しかし、澪が水着を脱ごうと思ったその時、バスルームの扉が開く。そこには腰にバスタオルをまいた詩亜が立っていた。彼はもうすでにジャグジーに体を埋めたようで、肌がしっとりと濡れていた。水もしたたる……というのは彼の為にあるかのように、髪が濡れた詩亜の姿はなんともいえず色っぽかった。
「へぇ。いいじゃん」
 澪はいきなりの詩亜の登場に呆然としていて、彼のその声で急いで体を両手で隠す。しかし、すぐに詩亜の手が彼女の体を隠した手を掴んできた。
「だーめ。もっと見せてよ」
「い、いや。はずかしいよ」
「なんで?いいじゃん。可愛いよ」
「か、可愛くないよ!可愛くないったら!」
 すごくすごく恥かしがる澪。しかし、そんな澪を詩亜が愛しいものを見るような目で軽く笑った。そしてその手を引っ張り、テラスまで連れて行く。
「ほら、澪。すげー景色だと思わないか?」
 詩亜に手を引かれ、連れて行かれた先。それはリビングの一番大きな窓から出られるテラスの先だった。大きなテラスには中央にジャグジーがあり、その先の手すりの先には、とても広大な海が広がっていた。
「う、うわぁ」
 もう太陽は地平線ギリギリまで落ちていて、頭上は藍色の空。海はまだ真っ赤に染まっていた。それが恐ろしいほどに神秘的な景色で、澪は思わず息を飲んでしまった。
「すごい。すごいね……。すごいよぉ」
 澪はテラスの手すりに掴まり、身を乗り出して興奮していて、口からすごいという言葉が何度も連発される。でもそれほどすごい景色だった。広くて大きなテラスはもちろん二人だけしかおらず、まるでこの景色が二人だけのもののように感じられた。なんて贅沢な一時。
 そんな景色に夢中になっている澪を詩亜が後ろから抱きしめる。申し訳なさ程度に体についている水着が余計に詩亜の体を興奮させていて、これ以上はもたなかった。水着のブラをいますぐ剥がしたかった。ショーツのサイドのリボンを乱暴に解きたかった。
 だから詩亜は澪を抱きしめるなり、すぐにその唇を奪う。
 神秘的な景色をバックにする熱いキス。それは自然に何度も何度も唇を重ね、そして舌をも絡ませる。まるで二人がこの先永遠であるように、神に見せ付けるようなそんな二人の愛撫だった。
 そして詩亜がテラスにあるビーチチェアに腰掛けたので、澪は誘われるかのように彼の膝に座った。
「澪。もう俺の前から急にいなくなるなよ」
 澪は詩亜の膝に座っている為、彼より顔の位置が少し高い。だから澪は彼を見下ろしながら恥かしそうに頷いた。
「うん。もうしない。もう心配はかけないよ……」
 そして二人はもう一度チュっとキスをしあい、そのまま詩亜が澪の耳元に軽くキスをしたので澪は甘い声を漏らした。だから詩亜はそのまま澪の首筋に舌を這わせ、澪の肩、胸元、そして、水着の上から胸に口付けを順番にしていった。すると彼女の胸の先端は、もう十分感じているようで、固くなっている事に気が付いた。だから詩亜は水着の中に手を入れ、澪の胸を強く揉み始めた。
 もう誰もこの行為を止めようとはしない。誰もが認めた関係。それが澪にも詩亜にも嬉しかった。もう二人は離れない。そう示すかのように二人は肌を寄せ合い抱き合っていった。
「……エロいな。お前のその姿」
 詩亜が澪の水着のブラを支えている首のリボンを解こうしながら、こう小さく囁いた。詩亜のせいでブラはすでに胸からサイドにずらされており、胸が丸見えになっている。だから澪は再び恥かしそうに体を捩じらせた。
「もう。言わないでよ。バカ」
 人を軽蔑するバカではなく、愛しているから言えるバカ。それが二人の愛の印だった。
「でもそそるよ。裸より断然いい」
 そう言いながら、詩亜は澪の胸の先端をぺロリと舐めた。すると澪があん、と甘い声を漏らす。
「……う、うるさい。バカ」
 そして二人は笑い合いながら、また唇を寄せ合い抱き合った。

 これから二人は何度心配しあうのだろう。何度困らせあうのだろう。でも二人は大きな山を何度も乗り越えてきた。だからもう決して離れる事はない。
 二人はそれだけお互いを大切に思っているのだから。愛し合っているのだから。

- 番外編:Fin -



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